「錯覚」落着いた慌て者。それが家族内での私の代名詞だった。表面上、特にあたふたしている訳ではないのに どこか抜けている様子が不可思議な事から、こう呼ばれていた。 全く、その通りだと我ながらに思う。 一応は、まだ素直なつもりで。(謎) それ程、人には迷惑をかけていない気はするけれど そう思っているのは、自分だけかもしれない。 とにかく私がやらかす事というのは、自分でも 信じられない事だらけ。 きっと、もっと上手がいるに違いない!と 自分で自分を慰めている。 その私が、起こした事件の中で最もシャレにならない事で 「お買い物事件」というのが、ある。 まったく公開していないが、 実は、私には一人だけ旦那さんがいる。 もう結婚して長い年月が経つが、まだ結婚後2、3年くらいの時だったと思う。 その頃、休みの日は時折、近くのスーパーへ買い物に連れて行って貰っていた。 近くと言っても、歩くには少し遠いので二人で買い物に 出かける時は、たいてい車だった。 私の旦那さんは、気が短い人で「待つ」事ができない人だった。 かと言って買い物に付き合うふうでもなく、私は必要な物だけを 迅速に買い、そそくさとレジを済ませて旦那さんの待つ車へ向かう。 それが、常だった。 ある時、例の如く買い物へ行った。 旦那さんは、行きしなにコンビニで雑誌を買っていた。 たまに気が向けば、スーパーの中まで入り一緒に品定めをする事もあったが それは極々、希で、勿論、その時は雑誌を手にしていたので 車で待つ旦那さんを待たせまいと、私はいそいそと買い物をする羽目になった。 ところが、買い物をするうちに何故か私の頭の中は どこかで何かが切り替わり、迅速に買い物は済ませたものの 駐車場で待つ『旦那さんを忘れて』帰宅してしまったのである! 信じられない事に、家へ着いても、その事には気がつかず 出かけてしまった旦那さんを逆に待っていたのだった。 彼が、どこへ行ったものか、その時の私には見当がつかなかった。 だいたい見当など、つく筈もない。旦那さんは駐車場にいるのだから。。。 仕方なく買い物袋の中身を片付け、晩御飯の用意をしよう! と思い立った私は台所へ立ち、お米をとぎ始めた。 台所の窓からは、私達が住むマンションの駐車場が見えた。 そこを見ながらお米をといでも、まったく思い出す気配はなかった。 いや、気配すらなかったのだ。 それから、晩御飯のメニューを考え始めた私は リビングのソファに腰掛け、また彼がどこへ行ったのか 考えていた。「パチンコかな?飲みに行ったのかな?」 旦那さんは、めったに飲みに行かない人なので 私の結論としては、パチンコ以外になかった。 そうこうしている内に、20分程、時間が経過していた。 それにしても旦那さんが黙って出かけるなんて事はない筈・・・。 私は、次第に、どこか変だな?と、なんとなく何かを疑いだした。 が、その時! 「イズミヤや!!」やっと思い出したのだ。 そこからの私は、まるで別人だった。 歩けば、20分はかかる場所へ10分で走り着いた。 旦那さんが待つ車を離れてから、約1時間程経過している事を計算しながら 手ぶらだと気付かれると踏んだ私は、また新たに買い物し直し さらに、雑誌に夢中になっている事を祈りながら駐車場へ向かった。 車の中が見える場所に近づくと、運良く旦那さんは 雑誌に夢中になっていた! 私は、何食わぬ顔で車のドアを開けた。 それでも、一応は緊張の一瞬。 「ん?遅かったなぁ。」旦那さんが言った。が、機嫌を損ねてはいなかった。 「え、そう?」私は女優にでもなったかのように、すっとぼけた。 でも、手に持っている荷物を見て、長かった割には少ないなぁ?と 突っ込まれた。けど、そこで「あなたを忘れて帰りました」などとは 口が裂けても言えず、無難にも晩御飯を何にしようか迷っていた事を 言い訳にしておいた。 その後、何事もなく一日は終わった。 幸いだったのは、最初の買い物の品を一つ残らず片付けていた事だろう。 あれから、10年くらいになるけれど 彼は未だに、その事実を知らない・・・・・! |